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第六十八話 医者の手も、白くはない

last update publish date: 2026-10-13 10:36:49

老医官様は、逃げなかった。

 逃げるような人ではない。

 それは分かっていた。

 分かっていたけれど、だからこそ胸が痛かった。

 医療房の中央に、白木の机が置かれた。

 いつもは薬草を広げる机だ。

 苦い薬湯を調合し、傷を洗う布を畳み、熱を測るための水盆を置く机。

 そこに今日は、証拠が並んだ。

 薬箱。

 薬包。

 名捨て香が混じっていた包み。

 使われた可能性のある空の包み。

 香抜き湯の記録。

 誰が、いつ、誰に、どの薬湯を渡したか。

 医療房の帳。

 そして、老医官様の手。

 老医官様は、自分から手を机の上に置いた。

 皺のある手だった。

 薬草で染まった指。

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